分裂と同化


 真夏のクソ暑い日だった。
 盆も明けて、俺たちはいつも通り二人で一緒に過ごしていた。
「あー、そうや。レイ、俺、明日友達の家に泊まりに行くから……」
「あーそう」
 いつも通りイチは平然と俺にそう言った。イチは友達が多い。だから、夏休み中だって俺を放ってどっか行くことは多々あった。
 だけど、明日は泊まりに行くと言う。イチが俺を放ってどっか泊まりに行くなんて、初めてのことだった。
「さみしない?」
「全く」
 イチは俺の顔を覗き込むと同時に、チュッと唇に触れる。6月の椿事から早2ヶ月。キスした回数、数え切れず、ヤった回数も数え切れない。
 毎日っつーほど、イチは俺を襲ってはイジメ倒していた。
「ごめんな、断りきられへんかってん」
「ええよ、別に。一人で留守番ぐらい出来る」
「お詫びにレイが大好きなアディダスのスーパースター買ったるから」
「じゃぁ、新作で」
 俺がそういうとイチはにっこりと笑って「新作な、りょーかい」と返事をする。夏休みに入ってから、イチはバイトを始めて金持ちになった。
 バイト代のほとんどを、なぜか俺に注ぎ込んでいる。たまには自分のために使えば良いのに。
「じゃぁ、今日はレイが寂しくないように、たっぷりかわいがったるからな」
「遠慮しておく」
 既に戦闘態勢入ろうとしているイチを牽制し、俺は洗い物を片付けていた。イチは基本的に料理が出来ない。だから、朝飯、弁当、昼飯、夕飯を作るのは俺だ。
 毎日毎日飽きるぐらいに「レイが作る飯は美味いなぁ」と言われたら、作ってる俺はもちろん嬉しくて腕によりをかけてしまう。それがバレるのがイヤだし「珍しい張り切ってるね」といわれると、かなり照れるから俺はイチに対して素っ気無くしてしまう。
 それでもイチはめげずに俺を褒め称え続けた。
 洗い物をしていると、後ろから手が入り込んでくる。ズボンの中に手を突っ込まれて、俺は皿を落としそうになった。
「いっ、ちっ!!」
「もー、我慢でけへん。レイの後姿色っぽいんだもん」
 そう言ってイチは俺の首筋にキスをする。そうなると互いに止まらなくなってしまって、風呂場だろうが台所だろうが、俺の部屋だろうがイチの部屋だろうがどこでもヤってしまう。
 さすがは高校生。性欲が有り余っている。
「ちょ、手、洗わせーや」
「ええやん、泡だらけで」
「良くない」
「ソープごっこみたいやん」
「絶対沁みるからイヤや!」
 俺は無理やりイチの体を引き剥がすと、蛇口から水をひねり出して手を洗う。痛い思いをするのは俺やし、イチはそれを楽しんでるからイヤやねんて。
「どこが沁みるん?」
「お前が余計なことするから、沁みるんやんか」
「俺が、レイにどう余計なことするん?」
 同じ視線で見るイチの目は俺を試しているような目だった。風呂場でやって、ちんこにシャンプーが入ったことが2回を俺は一生忘れない。
 頭洗ってんときに襲うバカがどこにおんねん!
「俺が頭洗ってた泡だらけの手で無理やりちんこ扱かせて、尿道に泡が入ったやろが!!」
「えー、あんとき痛いながらも喜んでたのレイじゃん」
「喜んでないわっ!!」
 喜んでたとか人格疑うようなこと言うな。あんときは痛くて涙出たし、ちょっとイチに対して殺意も覚えた。
「でも、俺がしごけって言って、自分からしごいたのレイやでな」
「うっ……。でも、しごかんかったら……」
「かったら?」
 あの時「自分からしごけへんなら、今日は挿入なし」とイチに脅された。頭の中グチャグチャになるまで、ケツの中かき混ぜられた後だから俺もちょっとトリップしてて言われた通りしごいた。
 そしたら尿道に泡が入って……。大泣きしてた。
「イチが脅すから」
「別に俺は脅してへんし、手を洗ったらあかんとも言うてへん」
 イチはしれっと答える。それが余計にムカついて、俺はイチに突っかかった。
「あっこまでしといてお預けはないやろ!?」
「だから、手洗ったら良かったやんか」
「そんな言えへんかったやんか!!」
「なんで俺がそこまでいわなあかんねん!」
 そこで俺がイチに頭突きをしたから、大喧嘩に勃発した。二人で互いの顔や体を殴りまくって「お前とはもう一生喋らん!」と俺が大声で怒鳴ったことにより、イチが「あー、そう。じゃぁ、一生口ききなや」と言って自分の部屋に上がったことによりケンカは終了した。
 俺もそんときはかなりムカついてたから、イチを無視して洗い物もそのまんまにして自分の部屋に篭り、目を覚ましたら昼の12時を回っていた。
「……あー、いてぇ。アイツ、おもくそ殴りよって……」
 イチに殴られた頬をさすって、俺はリビングへ降りる。いつもだったら、イチが朝から新聞を読んだりしてコーヒーを飲んでるはずなのに、その姿がなかった。
 まだ怒ってんのか?
 そう思ってイチの部屋に行こうと玄関の前を通ったときに靴がないのを見て、そういえば今日は友達の家に泊まりに行くって言ってたことを思い出した。
 清々する。
 いつも鬱陶しいぐらい一緒に居て、くっ付きまくるくっ付き虫が居なくて本当に清々する。
 わざわざイチのために嫌いな食べもんすり潰して、バレないように食わせる必要もないし。毎日毎日襲われて体力使うことも無い。
 どうせなら、これからずっと友達の家に行っていてほしい。俺はそこまで思っていた。
 俺より先に生まれたくせに、全然俺よりガキっぽい。一卵性双生児のくせに、全く似てへん。
 ……全然、似てへんねん。

 同じ卵から分かれて生まれた、元々一つの存在なのに。

 なんか悔しいから、イチの溜めてあるアイスをバカみたいに食った。そしたら、腹を壊して俺はベッドに篭っていた。
 暑い。けど、クーラーかけたら寒くてまた腹が冷える気がしたから、俺はジッと寝転がっていた。
 一時期よりも具合は良くなって、俺はボーっと天井を眺めていた。
 いつもだったら、イチは俺を心配して「大丈夫か?」と隣で見守っててくれるのに。
 今日はイチが居ない。
 イチの居ない家は広すぎて、俺が寂しくなるやんか。
 そんぐらい考えーや、バカ。別にアディダスのスーパースターの新作なんか、いらんっちゅーねん……。
 イチが傍に居てくれるだけで、俺は十分や……。
 なんだか、そう考えてたら涙が出てきた。自分の部屋だと寂しいから、隣にあるイチの部屋に行ってみた。
 少し乱雑に物が置かれているイチの部屋には、イチの匂いがした。ベッドに寝転がると、もっとイチの匂いがする。
 俺と同じシャンプー使ってるけど、俺とは違う匂い。同しなはずなのに、俺とイチは違う。
 布団に包まってイチの匂いを嗅いでたら、イチとヤってる気がしてムラムラしてきた。
 気づけば俺のペニスは勃起してて、触れると「ふぁっ」と声が漏れてしまう。
 イチが俺を見ている気がする。イチの匂いに囲まれてたら、扱く手が止まらなかった。
「ふっ、あぁ、いちぃっ、あぁっ……」
 いつものようにイチの名前を呼びながら扱く。絶対にイチの目を見なきゃいけないのに、今、目の前にイチは居ない。
 たかが12時間離れてるぐらいで、俺はどうしてしまったんや。イチが傍にいなかったら、死にそうなぐらい寂しくなってしもたやんか。
「いち……、はやく……、かえってこいやぁっ」
 ちんこしごいて、ケツの穴に指突っ込みながらイチの名前を呼んでたら、ガチャっと部屋の扉が開いた。
「あ……」
 ピタッと俺の動きも止んだ。だって、帰ってこないって言ってたし。つか、俺、オナってたし。
「……何してん?」
「なっ、きょ、今日、泊まりじゃっ……」
「なんかな、レイが呼んでる気がしたから。バックレて帰ってきた」
 な、なんなん!?呼んでたけど、呼んでたけどさっ。これが双子のテレパシーって奴か!?
「へぇ、俺の部屋でオナってたんや。俺の名前呼んで」
「よ、呼んでへんっ!!」
「ドア越しに聞こえたけど。イチ、早く帰ってこいやって」
 イチはカバンを部屋に置くと俺の上に覆いかぶさってきた。ビンビンに勃起してるペニスを掴んで、ゆっくりと扱き始める。
「寂しかった?レイ」
「んなわけっ……」
「ごめんな、寂しいの気づいてやられへんくて」
 イチは俺のおでこにちゅっとキスをする。すると、イチが帰ってきてくれた喜びと、さっきまでの寂しさが込み上がってきて、泣けてきた。
「な、何を泣いてるん!?」
「だって……」


 イチが傍に居ないこの家はとっても広くて。
 イチが傍に居ない時間がとても詰らなくて。
 イチが傍に居ない俺はなんもできひん人形になってもた。
 俺はイチが傍に居なければ、何も出来ない。


「寂しかったんやからなぁっ!!」
「はいはい。ごめんな?もう泊まりに行ったりせーへんから」
 泣きついた俺を宥めるようにイチは俺の背中をぽんぽんと叩く。イチは俺の体を少し離すと、唇をそっと重ねた。
 パッと唇を離すと、イチは「じゃー、次は俺のちんこ舐めてもらおか」と言ったので、俺は大人しく舐めた。
「んっ、くっ」
 喉の奥までイチのペニスを突っ込んで、必死に舌を使う。それでもイチ曰く「レイはフェラが下手」らしく、毎日毎日勉強として舐めさせられている。
 それだけでもイチより俺のが感じてしまって、ペニスは勃起してた。
「美味いかー?俺のちんこ」
「びもー」
「まー、でも、美味そうに喉奥まで突っ込んで、ちんこ勃起させてたら微妙なはずないけどな」
 イチはクスクスと笑いながら、足で俺のペニスを刺激する。ビクッと震えて俺はイチの腰を掴んで自分の体勢を保っていた。
「涎、垂れとる。そう見るとレイの顔って間抜けに見えるな」
「うるはい」
 口の端から流れる涎など無視して、ずっと銜え続けてると「もー、えぇって」とイチが無理やり俺の口から剥がす。そして体を持ち上げてベッドに寝かした。
「一人で後ろいじくるから、トロットロになってるやん。もう入れてもいけるな」
「ん、早く」
「一人でオナったお仕置きせなあかんな」
 イチはにこっと微笑んでから、俺のペニスを紐で結んだ。これで俺はイけなくなる。
「いやや、これ、いやや!!」
 以前もやられて頭の中吹っ飛んだことがあるから、俺はブンブンと首を横に振る。
「えぇやん。レイは出さんでもイけるやろ?」
「それやると苦しいからイヤやって!」
「えーやんか」
 俺の意見を無視するようにイチは俺の中にペニスを突っ込んだ。ガシガシと乱暴に突っ込まれ、意識が吹っ飛んでいく。
 何も考えられなかった。
「どや?気持ちええやろ」
「うんっ、いちの、きもちっいい!」
 どこにも行かないように、離れないように俺はイチの首に腕を絡めてしがみ付く。自分から腰を振って、強い快感を生んでいた。
「どうしてほしいん?レイは」
「もっと、もっと!」
「もっととか、淫乱やなぁ」
「だって、い、ちがぁっ!」
「せやな、俺のせいやな」
「ちゃうっ……、ちゃうね、んてぇっ……、おれ、がぁっ、いんらん、だからぁっ」
「どっちやねん。さっき、俺のせいやってゆーたやん」
 頭の中がこんがらがって、自分が何を言っているのかあまり理解できていなかった。
「ひぁっ、いち、だめっ、イきたぁっ」
「イきたくてもイかれへんやろ?」
 イチは先走りの汁が垂れまくってる俺のペニスを掴んで、上下に擦っている。中もペニスも一緒にぐちゃぐちゃと音を立てている。
「ん、なんか、あぁっ、だめに、なるっ」
「ダメになるってなんやねん」
 頭の中が真っ白になりそうだった。それと同時にさっきまで余裕ぶっこいていたイチも動きを早める。
「いっ、ちっ!!」
「れいっ……」
 互いの名前を呼び合うと同時に俺が先にイってもーて、その後少し遅れるぐらいにイチがイった。
「なんか、こうしてると俺たち双子って感じやな」
 イったはずなのに、イチは俺の中に突っ込んだままにこっと笑う。
「何がやねん」
「……ほら、俺たちって元々一つの卵から分かれて生まれただろ?」
「あー、せやな」


「分かれた俺たちが一つになって、卵に戻った気がして安らぐねん」


 あぁ、つまりアレやな。


 俺たちは細胞分裂で分かれてしまったけど、元々は一つってことだ。だから、一緒に居れば安らぐし、相手が助けを求めていればすぐに分かってしまう。


 だから、俺の考えもイチにはバレバレだし。イチの考えだって、俺にはバレバレなんや。
 俺はイチに隠し事できひんし、イチも俺には隠し事ができひん。
「なぁ、レイ。明日は夏祭りに行こうか」
「は?」
「寂しくさせてもーたお詫びに、俺が屋台奢ったるから」
 そう言ってイチは俺にキスをする。まだペニスは突っ込まれたままで、少し腹が苦しかった。
 だけどどこか心地よくて、このままで居たいと思ってしまうのは……。



 きっと、俺たちが元々一つだったのを分裂してまた同化したからだと思う。









+++あとがき+++
moon様からのリクエストでした。

イチとレイ、地味に人気ですね。関西弁が良いんでしょうか?
双子が良いんでしょうか?
二人は元々一つだったと言う事をメインに書かせていただきました。
夏休みにイチだけ遊びに行って、レイがお留守番で寂しくて、テレパシー的なネタは浮かんでいたのですが、
続編かかないって言った以上、お蔵入りさせようと思ってた矢先にこのリクエスト!
ネタが出来上がってただけに書きやすかったです。


この二人の話は好きです。いつか、連載させたいなーって思ってます。
2009/10/11 12:55 移転に伴い追記。


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