自由と束縛
この日は、イチが夏祭りに行こうと騒いだため、一緒に行くことになった。
「レイ、食べたいのあったら、何でも言えよ?」
「たこ焼き」
外へ出るとイチは凄く優しくなる。それが妙に気持ち悪いけど、こういう時に言いたいことを言っておかないと家の中じゃぁ言えないので、俺はここぞとばかりに言う。
「よし、たこ焼きな。他になんかほしいもんは?」
「見ながら決める」
ジャリジャリと砂利道を歩き、屋台をジッと見つめた。町でも大きい今日の盆踊りは人で混雑していた。
俺はあんまり人混みが好きじゃない。だってー……。
「おー、イチやんかぁ! 何してん!?」
ほら、こうやってイチの知り合いに会うからイヤなんや。イチは俺をちらっと見てから、手を振った。
「おお、大本。元気にしてた?」
イチは俺に口パクで「ごめん」と言うと、その大本とやらの所へ行った。
基本的にイチは友達が多い。俺は友達が居ない。ここで歴然の差が出てしまう。俺はそっとイチから離れた。
全く……。イチが行きたいって言うから、盆踊りに来たのに。イチが友達と喋ってれば、俺はどうしたらええんや。
買ってくれるって言った、たこ焼きも買ってくれへん。
俺は列に並んで、たこ焼きとお好み焼きを買ってから、静かなところでお茶を飲みながら買ったのを食べていた。
一人で食べるたこ焼きは全然おいしくなかった。
結構、好きなのに……。
イチは今頃、友達と遊んでいるんだろうか。そりゃぁ、俺だってイチを束縛する気なんか更々ない。
けどな、俺と一緒にいるなら、少しぐらい俺と一緒にいてくれたってええやんか。
まぁ、毎日一緒にいるからなんとも言えへんけど……。
友達なら大切にせなあかんからな……。
俺は基本的に人見知りが激しい。だから、どうしても友達ができにくい。クラスでは喋る人がそこそこ居るけど、大概がイチ目当てや。
「レイ君とイチ君って、あんまり似てないでな」良くそう言われる。俺は名字で呼ばれる事が多いけど、イチは名前で呼ばれる事が多い。
あぁ、俺たちって、本当に双子なんだろうか。
時々、凄く不安になってしまう。
ドンと大きい爆音みたいな音がして、俺は空を見上げた。からっと晴れた空には、星が浮いている。そこに大きい花火が花開いた。
「花火や……」
そう言えば、今日は花火もやるって言ってた。イチは「花火大会と盆踊り、どっちがええ?」と聞いていた。花火大会なんて、人が多すぎて死んでまうわと思った俺は盆踊りを選んだ。
俺が、花火大会を選んでいたら、今頃イチと一緒に見れてたんだろうか。
……いや、今日と同じ感じになってたと思う……。
「レイ! どこや!?」
イチの大声が聞こえた。消えた俺を探してるんだろうけど、俺は素直に出て行くことができなかった。
もうちょっとだけ、探したらええねん。アホが……。
「レイっ!!」
ガシッと肩を掴まれ、俺は無理やり振り向かされる。そこには汗まみれのイチが居た。イチの両手には大量の食べ物が持たれている。
……なにしとん、コイツ。
「なんやねん」
「なんやねんはこっちのセリフや。どっか消えてしまうし……」
イチははぁはぁと息を整えている。俺を必死に探してたんだろうか。それを見てたら、俺が悪いことしてる気になってきた。
だけど、俺はイチになんか絶対に謝れへん。
「だって、イチは友達と喋っとったやんか」
「しゃーないやろ。話しかけられたんやから。だからって、どっか行くことないやんか」
イチはどかっと俺の隣に座った。なんやねん、全面的に俺が悪いんか?
俺やって……。少しは気を使ったっちゅーねん……。
「俺が居たら気まずいやろ!? あの大本ってヤツはそう言う目しとった」
「レイの被害妄想や。あの後大本だって、レイのこと探してくれたんやからな」
「……知るか、そんなん」
俺はプイッとそっぽを向いた。探してくれたからって、なんや。俺とどうこうするわけないやん。人間そんな面倒なことするわけない。
たまたまイチの双子の弟だから探してくれただけやろ……。ふざけんな。
「なんでそうやって、レイは人と仲良くしようと思えへん?」
「別にええやんか、俺の勝手やろ」
誰かと仲良くしたからってなんかあるわけちゃう。友達ができへんのはしゃーないやろ。俺は家のことで忙しかったりするから、できへんねん。
「良くない。……俺がおらんようなったら、どないするん」
「……は?」
「いつまでも俺が一緒にいると思いなや」
イチはきっぱりとそう言う。俺はその言葉が裏切りの言葉のように思えて、胸がずきっとした。
一緒におってくれへんやな。
イチは、ずっと、俺とおる気がないんやな。
「もうええっ!!」
「れ、レイっ!!」
俺は腕を掴むイチの手を振り払うと、一目散に走って逃げた。こう見えても、俺はイチよか足が速い。つーか、イチに勝てるもんなんか勉強と足の速さだけや。
まさか、イチにあんなこと言われると思ってなかった。
ずっと一緒におってくれるもんだと思ってた。
なんやねん。
弟をほったからしてどっかいってまうんやな、あの冷酷人間は。
もう知らんっ!!
気づけば俺は大泣きしていた。グシッと腕で涙を拭いて、俺はあぜ道で立ち止まった。
背後からドーンと花火の音がする。俺は泣いているのに、花火は綺麗にあがってて、それが余計に俺をいらいらさせた。
もう俺は何がムカついているのか分からない。イチもムカつく、花火もムカつく。
だけど、何もできひん自分に一番ムカついとった。
俺が俺を一番嫌いなんや。そんなんなのに、イチが俺のこと好きで居続けてくれるわけない。そう考えたら、もっと涙が出てきた。
「……俺はどないしたらええんやぁ……」
イチが居なくなればいいって思ったことはいっぱいあった。小さいころから、ずっと一緒に居たせいでイチに対する敵対心は未だに消えない。
アイツは何でも持ってる。イチって言う名前のように、アイツは最初だからなんでも持ってた。
俺はレイや。全ての最後や……。最後にはなんも残れへん。
もう、こんなんいやや。イチのことで一喜一憂している俺が嫌や……。
俺は小川の土手に寝転がった。蛙だかなんだかしらんが、虫が鳴いててうるさい。ちょっとは俺の気持ちくみ取って、少しは静かにしーや。
もう、何もかも最悪や。俺が最悪や。
母さんの腹の中で細胞分裂さえせーへんかったら、俺は生まれることがなかったんだろう。イチは俺に振り回されずに済んだんや。
俺が生まれたこと自体、間違いやったんや……。
そう思って、俺はギュッと目を閉じた。消えてしまいたい。レイって言う名前のように、全て無くなってしまいたかった。
そんとき……。
「あれぇ……」
頭上から声がして、俺はパッと目を開けた。俺の目の前には、男が三人取り囲んでいる。
……なんやねん……。
俺が黙っていると、そいつらはニヤニヤ笑って俺を見ている。なんか少し、イヤな予感がした。
「お前、イチの弟やろ」
「は?」
「イチはどないしたんや?」
またイチかよ……。俺にいちいちイチのことを尋ねてくんなっちゅーねん。
「しらんよ。盆踊りの所にでもおるんちゃうか」
「へぇ。一人ぼっちなん? ついにイチに見放されたんか?」
こいつらは元々イチが目的だったんじゃない。俺をからかうのが目的だったんだ。そんなのを相手にしているだけ無駄やから、俺は無視していた。
「なんとか、こたえーや」
ガシッと肩を蹴られた。ずきっと痛んで、俺はそいつらを睨みつける。なんで、蹴られなあかんねん。
「何するん」
「生意気やから、しめたろうと思って」
「はぁ?」
何で、俺がこいつらにしめられなあかんねん。意味分からん。そんなこと考えている間に、俺は他の二人に腕を掴まれて立たされた。
ここは民家も何もない田んぼの中の土手。
四面楚歌……。
「折角話しかけたったんやから、無視しーなや。仲良くしようぜぇ」
「……いやや」
こんな頭の悪そうな奴らとなんで仲良くせなあかんねん。鬱陶しい。鬱陶しいのはイチ一人で十分やっちゅうねん。
「なんやねん。イチの弟やからって、調子にのんなや」
乗ってへん! と言い返そうと思ったときだった。
「別に乗ってへんやろうが」
聞き慣れた声がした。そいつは背中を蹴られたんかなんかしらんけど、前のめりにコケた。そいつの背後には、不機嫌そうな顔をしているイチが居る。
俺はイチを睨んだ。助けてくれなんて、一言もゆーてへんし。
「レイから離れり。はよせな、けんで」
イチがそう言うと、俺の両腕を掴んでた男たちはパッと離れて、コケた男を引きずってどっかへ消えて行った。
俺はイチをジッと睨む。
「勝手に行くからそう言う目に遭うんやろ」
「うっさい。助けてなんかゆーてへん」
俺がイチの隣を通り過ぎようと思った時、イチは俺の腕を掴んで土手の土の上に押し倒した。
ゴツンと頭を打ってしまい、痛いと言う前にイチに唇を塞がれる。
な、なんやねん。俺はキスされたぐらいじゃぁ、許せへんで。
だから、俺はイチの唇を思いっきり噛んだ。
「いたっ……」
「離せ、さわんなやっ!!」
イチから逃れるようにバタバタと足を動かす。腹の上に乗られてたら、俺は身動きも取れなかった。
完全にイチは俺に対して怒ってる。だけど、怒ってる理由が全然分からへん。
「なんで勝手に、どっか行こうとするんや!」
「そんなん、俺の勝手やろ!! いちいち、うっさいねん! ちょっと先に生まれたからって兄貴面すんなや!!」
「俺はレイのこと心配するから怒ってんねん!! 分かってるんか、それを!!」
抵抗する俺の腕を抑えつけて、イチは真上から怒鳴る。イチの目は真剣そのもので、いつもみたいな間抜け面じゃなかった。
イチが俺のことを心配してくれてるのは分かってる。
分かってるけど……。
「じゃぁ、なんであんなことゆぅたんや……」
「……え?」
「いち……、俺からはなれたいんか……?」
もう泣いたらとまらへんかった。俺はまたわんわん泣きながら、イチに泣きついていた。
イチは抑えつけていた手を離すと、俺を抱き上げて頭をゆっくり撫でる。
「ごめんごめん。言い方が悪かったわ」
「な、なんやねん……」
「俺が言いたかったんは、レイが居てほしいって思ってても、一緒に居てあげられへんこともあるからってことや」
ほんまに、なんやねん。コイツ、国語苦手すぎやろ……。
あんな言われ方したら、俺は……、俺はっ……。
「この、バカ野郎っ!!」
「いたっ!!」
「こっちは、こっちはなぁっ!!」
イチがもう一緒に居てくれへんと思って、ショックやったんやからなっ!!
そう叫ぼうと思ったのに、イチが俺をギュッと抱きしめるから何も言われへんかった。コイツは俺を黙らせるのは得意中の得意なんやろうな。
「レイ、ごめんな」
「……ほんまやで」
「一生、離れるつもりないから、覚悟しいや?」
イチは俺の目を見て、試すように言う。
……何が覚悟しいや、や。
こちとら、お前から離れるつもり更々ないねん。
なんてたって、生まれた時から一緒やからな。
+++あとがき+++
美希様からのリクエストでした。
壱と零、2個目のリクエストです。この二人は書いてて楽しいですね。
必ず、何かケンカしますね。二人のケンカ、楽しいです。
今回はなんか、最終回みたいなノリですね。
もう当分は、書くことないかなーっと思ってます。
この二人に関しては、やりたいことはやりきりました。
今回初めて、二人以外のキャラが出てきましたね。笑
この二人以上の双子ネタ、思いつかないなー……。
2009/10/11 20:02 移転に伴い追記
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