アンチエイジングの秘訣


 昔から神様ってのは平等だって言ってたけど、俺はそうと思わない。
 頭が良くて、ちょっと運動オンチだけど、可愛らしい顔をしたアイツが……。アイツが……。
 俺が大好きだったアイツが……。




 実は男だったなんて……。




 衝撃的な事実に、俺は、マジで死ぬかと思った。




 俺は今、市立病院に入院している。
 なんでかってーと、事の経緯はこんな感じだ。
「ちょおおおおっ!!! 修ちゃん!!! 自殺はダメよっ!!」
「うるせぇ、カマ野郎!! 話しかけんな!!」
「ひどいっ!! 修ちゃんなんてしんじゃえ!!」
 どんと背中を押され、俺は10mほどある川へ転落した。足から落ちたせいで、頭とかには異常は無かったが両足が骨折とかなり痛い目にあった。
 俺のベッドの隣で座っている、カマ野郎。沢野麻紀は小さい頃から女装癖があり、いや、むしろ、生まれたときから女装させられ「麻紀ちゃんは女の子」と言われ育ってきた。
 まぁ、親の育て方が悪かったわけだ。
 それでも顔は女の子みたいに可愛いし、髪の毛だってロングでもショートでもおかしくない。そして名前からして女の子っぽいから、誰もが女だと信じていた。
 俺もその一人だったわけ。
 小さい頃からずっと一緒に居て、男だって気づかなかったこと自体がおかしいわって思う人もいるかもしれないけど、本当に知らなかったんだから仕方ない。
 ましてや、そんな奴に俺は恋していたんだ。ショックは計り知れなかった。
 考えてみれば、こいつ、貧乳だ。胸ないからって男だなんて気づくわけねーだろ……。
 ま、なんで、俺に男だってバレたのかって言うと、カミングアウトされたんだ。
 気づいてると思うけど、私、戸籍上は男の子なの。でもね、でも、心は女の子だし、心と体が別々で生まれてきちゃったの!! ってな。
 全然気づいて無かったよ。悪かったな。
 とまぁ、初恋にして初失恋した俺は近くにあった川に飛び降りようとして……。バカ力で突き飛ばされたってわけ。
 やっぱり、力は男だったよ。落ちた俺を引きずり出してくれたのも、麻紀だしな。まさか、俺を抱えれるとは思いもしなかったよ。
「しゅ、修ちゃん」
「……何?」
 麻紀はもじもじとしたまま、俺を見ては視線を逸らす。俺を突き飛ばしてしまったことに罪悪感を覚えているんだろう。
 両足が骨折しただけだ。しただけってのも微妙だけどな。手術したし。
「あの、ごめんね。突き飛ばして」
「まぁ、もういいよ。取り乱した俺も悪いし。運よく神経とかも損傷してないって言うからさ。あとは治るだけだって」
 俺は一切麻紀と目を合わさなかった。合わさなかったってよりあわすことが出来なかったんだ。
 ずっとずっと好きだった。めちゃくちゃ好きだったんだ。
 こいつのためなら死ねるまで思ってたのに……。男だったなんて……。
「あ、あのさ、私さ……。毎日お弁当作ってくるから」
「……へ?」
「修ちゃんが早く元気になってもらえるように、お弁当作ってくるね!!」
 麻紀は目に浮かんだ涙を拭いて、俺の病室から走って出て行った。男だってカミングアウトしても、麻紀はやっぱり女の子みたいで俺に対する態度も全然変えなかった。
 逆に態度を変えてしまう俺のほうが、麻紀に対して失礼な気がした。
 翌日から、麻紀は俺に弁当を作って持ってきた。そりゃぁもう、肉肉肉肉肉肉。そしてたまに小魚。ご飯の上には煮干が大量に乗っていた。
 もっと可愛い弁当を作ってきてくれることを期待していただけに、俺はショックで泣きそうになった。
「な、あ、ありがとう」
「私ね、いろいろ調べてきたの。骨折には何がいいかなーって思って。やっぱりお肉さんとお魚さんかなって思って」
 俺は恐る恐る箸を弁当に伸ばす。肉はイロイロ味付けされていて、見た目はあんまり良くなかったけど味はかなり良かった。
 食べていても飽きない。
 ご飯の上に乗っかった煮干だって、南蛮漬けみたいになってて美味かった。ま、飯の上に乗せるもんじゃねーけど。
「ん……、美味い」
「ほんとにぃ!? 朝早くおきて作ったかいがあったぁ!」
 麻紀は本当に嬉しそうに喜んで、俺が食べるのをジッと見つめていた。やっぱり、そんな顔しているのを見ていたら好きだって気持ちがどんどん込みあがってきたんだ。
「ごっそーさん」
「お粗末さまでしたぁー」
 俺の手から弁当箱を受け取ると、麻紀は可愛いかばんの中に弁当箱を詰め込む。すると、体を拭く時間になったのか看護師が病室にやってきた。
「川崎さん、お体拭きますよー」
 暗に麻紀に出て行けというような目で看護婦が麻紀を見る。俺は「麻紀、そろそろ----……」と出て行けと言おうと思ったら、麻紀がガバッと立ち上がった。
「修ちゃんの体は私が拭きます!!」
「えぇ!?」
「貸して下さい!!」
 看護婦の手からタオルと洗面器を奪い取ると、麻紀は布団をバッと捲りあげる。それを見た看護師は「偉い彼女さんですねー」と笑って病室から出ていった。
「ちょ、麻紀! カーテン閉めろ!!」
「……いいじゃん」
 ボソッと呟く声が聞こえて、俺はパッと麻紀を見上げる。麻紀はにやりと笑って、俺を見下していた。
 その目は、ちょっとだけ男っぽかった。
「修ちゃん、羞恥プレイとか好きだろ?」
「んなわけ……」
「窓開けてオナニーしてるの、1回見たことあるぜ?」
 麻紀はパジャマのボタンをプチプチと外して、俺の体に触れる。さっきまでめちゃくちゃ女の子っぽいこと言ってたくせに、今はめちゃくちゃ男っぽいじゃねぇか。
 なんて二重人格……。
「ちょ、麻紀……、何やってんだよ……」
「私、ずっと修ちゃんのこと好きだった。けど、修ちゃん全然気づいてくれない。だから、もう、めんどくせぇから、勝手にやることにした」
「……は?」
「女の子らしくしてたら、修ちゃん一緒に居てくれるかなって思ってた。けど、全然修ちゃん気持ちに気づいてくれないんだもん!!」
 時折素が混じるのは気のせいだろうか? つーか、俺のために女の子らしくしてた? 良く分からない。
「え、あ、あの、ちょっと、ちょっと待て」
「もう待てない!!」
 麻紀はそう怒鳴ると俺の上に乗っかって、いきなりキスしてきた。ふわっと香水のいい匂いが俺の鼻を突く。
 くちゅくちゅっと舌が絡んで、俺は息が上がってしまう。
「ふ、あ、ちょ……、麻紀……」
「どうしたの? 修ちゃん。キスだけでイきそう?」
 麻紀の手が俺の下半身に伸びる。触れるとびくんと体が震えてしまい、少し恥ずかしくなってきた。麻紀は俺のペニスを掴むとゆっくりゆっくりと扱き始める。
「んく、あぁっ、ちょ、まき……」
「どお? 気持ち良いでしょ。修ちゃん」
 麻紀の声が頭の中で反響する。どんどん頭の中が重たくなってきて、俺は行き場を失くさないように麻紀の腕を掴む。
 入院してから1回も抜いてないし、最近オナニーなんか全然してなかったからすぐにでも達しそうになる。
「修ちゃん、お口でやってあげる」
 麻紀が俺を見て、笑った。
 結局、口でやられてすぐに達してしまい、麻紀は俺の精液をゴクンと飲み込んだ。口元を指でぬぐって、俺のズボンを履かせる。
「じゃー、体拭くね」
 俺の上から降りると、麻紀はタオルで俺の体を拭いて丁寧にパジャマを着させてくれた。俺は何がなんだか分からず、ただ操り人形のようにボーっと寝転がっていた。
 一体、何だったんだ。
「明日もお弁当持って来るね」
「え、あぁ、うん……」
「そんでもって、また抜いてあげるね」
 麻紀は極上の笑顔で微笑むと、病室から小走りで出て行った。
 それから俺が退院するまで、ほぼ毎日、麻紀は俺の病室に遊びに来てはフェラをして帰っていった。



 やっとこさ退院することになり、その日も麻紀は「荷物持ってあげる」と言って、俺の家まで付いてきた。
 にこにこと笑う笑顔に俺は若干の恐怖心を抱きながらも、一人暮らししている家を案内した。
「へぇー。ここが修ちゃんちかぁ」
 麻紀は俺の部屋を見渡して、どさっと荷物を置いた。大学に入ってから一人暮らしを始めて、麻紀を家に連れてきたことが無かった。
「それにしても、夏休み中でよかったかも。学校始まってたら、修ちゃん留年してたかもね」
「あー、そうだな」
 おかげで夏休みが1ヶ月半近く潰れたけど、俺は文句も言わずに荷物を片付け始めた。
 麻紀は俺の部屋を見渡して、買ってきた飲み物などを冷蔵庫に詰め込んでいた。
「ねぇ、修ちゃん」
「なんだ?」
 後ろから声がして、俺は驚きながらも振り向くと麻紀が俺の真後ろに立っていた。いつの間に移動したのかわからなくて、俺はマジでビビッた。
「私、ずっと我慢してた」
「……は?」
「退院するまでは我慢しようと思ってたの。だから、今日は我慢しない」
 何となく我慢の理由が分かってしまって、俺はたじろいだ。見た目も中身も女の子だけど、体は男の子の麻紀に俺は力で勝てなかった。
「修ちゃんの体、めちゃくちゃ良かったよ。私、病み付きになっちゃうかも」
 ぐったりとしている俺に、麻紀はちゅっとおでこにキスをした。何となく想像は出来たが、俺が掘られるまでは想像していなかった。
 尻がやたらと痛い。
「……あー、そう」
 俺はベッドにゴロンと寝転がって、麻紀の顔を見上げる。胸はないけど、顔は女の子だ。やっぱり、可愛い。
「良かったの? 私なんかに掘られちゃって」
「いいよ、別に」
「別にってどういうことよ」
 麻紀はちょっと不機嫌そうに俺をにらみつけるから、俺はグッと起き上がってとんがっている唇にちゅっと触れた。
「俺もお前のこと好きだったんだよ。かなり昔からな」
 俺が耳元でそういうと、麻紀は顔を真っ赤にして俯いた。



 数日後。
 なんで毎日毎日、俺の精液を飲んでいたのか気になって聞いてみた。
 すると、答えは……。




「あれ、知らないの? 童貞の精液は若返りに良いってことで楊貴妃も飲んでたのよ? だから、修ちゃん。私のためにずっと童貞で居てね」




 と麻紀は溢れんばかりの笑顔でそう言った。




 つまり、俺の精液を飲むのはアンチエイジングってわけか………………。









+++あとがき+++

ニュートラルゾーンを考えたときに、最初に浮かんだタイトルが「アンチエイジングの秘訣」でした。
けど、若菜先輩はオカマなだけで若返ってないってことで、アンチエイジングの秘訣は取止めになりました。
そっからうだうだ1時間近くタイトルを悩む破目になったんですが……。

今日、お友達のMASAMIさんとその話をしていて「アンチエイジングの秘訣って響きがいいですよねー」ってことから、浮かびました。
えぇ、浮かんじゃいました。
そんでもってまたまたオカマネタです。
私の中でオカマ=攻めなんですよねーっ……。
可愛らしいオカマさんにしてみました。
けど、きっとこの人は腹黒いと思います。

2009/9/16 14:16 久遠寺 カイリ

やっぱりオカマは攻めだなってこの話を読むたびに再認識します。
カマ攻めさいこー
2009/10/10 6:05 移転に伴い追記
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