マジックホリック 1


 この世の中には、勇者様とそれを補佐する人たちと、国を滅ぼそうとする悪い人たちが居るわけです。
 そんな人たちが国を侵略したり、雑魚たちを使って町の住民などに危害を加えるものですから、この国の最高権力者である神官様はある決断をしました。
 勇者としての力を持つ人を、神殿に呼び寄せ勇者にしてしまうと言うなんとも無謀っぷり。
 その勇者としての力を持つ人ってのは、稀に生まれる男の人らしいです。僕も又聞きなんで良く分かりませんが。
 どこをどうやって勇者と認めるのか分かりませんが、この日のこの時間に神殿にやってきた人が勇者らしいです。
 その適当加減に「ふざけているな」と感想を漏らした僕ですが、本当にその時間に男の人がやってきたのです。男の人ってより、少年から青年に切り替わるまだまだケツの青いガキなんですが。
 見ず知らずの真っ白い髪の毛に真っ白い服を着たジイさんに「お前が世界を救うのじゃ」と、運悪く勇者に持ち上げられてしまった水嶋聡史17歳はげっそりとした顔で魔法使いである僕のところへやってきました。

「あのさ、ちょっと一緒に旅してくんね?」

 そりゃぁもう、今から近くのコンビニにでも向かうような軽いノリに、一番最初にキレたのは先代の魔法使い……。いや、我が父でした。
 まだレベルも低い勇者に対して、高位魔法である時空魔法や召還魔法を使って即死させるおつもりだったので、必死に宥め面倒くさそうにあくびをしている勇者の腕を引っ張って家を飛び出し一緒に旅をすることになりました。
 パーティとしてはまだ初期段階。各地に散った仲間を探して、「さー、みんなで力を合わせて魔王を滅ぼすぞー」って所なのに、水嶋さんは「二人で行こう」と僕を連れて他の町にいる仲間をオールスルーしてしまった。
 イベントスルーも良い所です。聞いた話によると、隣の町には格闘家、そのまた隣には狩人がいると聞いていただけに、僕はがっかりしました。
 良く分からない勇者です。
 それでも僕は水嶋さんの言うことだけを利いていようと思って、何も口を挟まずに二人きりで旅をしていました。
 偉大なる魔法使いである父から、耳に蛸、寝言でも言ってしまうぐらいに「魔法使いとは、勇者を支えるべき存在だ。でしゃばってはいけない」と口うるさく言われていたものですから。僕は勇者を支えるだけに専念していました。
 意志は無いんだと頭の中に叩き込み、ただ淡々と出てくる敵を倒し、夜になれば僕が寝ずの番で水嶋さんを守り、二人でレベル上げをしておりました。
 そんな水嶋さんと一緒に旅を始めて数日後、二人だとさすがに限界を感じてきました。
 そもそも、水嶋さんは剣の使い方がなってないんです。振れない、切れない、戦えない。僕、一人がファイアだのウォーターだの、一人マジックポイントを消費して、経験値は折半。
 どういうことでしょう。このバカ勇者は、僕が倒した経験値でドンドンレベルが上がっていくんです。レベルが低いから少ない経験値でもドンドンレベルが上がるんです。
 それに、魔法使いはヒットポイントが少ないのに、僕を盾にしようとする。僕があまり攻撃をしすぎると、ターゲットが水嶋さんから僕に移ってしまうんです。
 分かっているはずなのに……、本当にひどい勇者です。
 まぁ、正義感が強くて暑苦しいどっかのテニスプレーヤーみたいな勇者より、まだマシですが。僕は暑苦しい人、嫌いですから。
 パチパチと燃える焚き火を見つめながら、ああ、このまま時空魔法でも使って逃亡してやろうかなと目論んでいる時、いきなりテントの中から「うあああああ!!」と叫び声が聞こえ私はテントに向かいました。
 いつも気だるげな水嶋さんがあんな大声を上げるのは、初めてのことですし。ま、どうせ、虫かなんかが出たんだろうと思ってシャッとテントの入り口を開けると、水嶋さんは呆然とした顔で僕を見つめていました。
「……どうかしました?」
「あ、いや、ごめん。なんでもないんだ」
 水嶋さんは一瞬、悲しそうな目で僕を見てからまた布団にもぐり、ぐーすかと寝始めました。
 えぇ、水嶋さんが寝ているときは僕が見張りをしないといけないのです。
 焚き火のところまで戻って、空を見上げると美しい星たちが煌々としていました。僕が生まれた場所は、国の中でも一番栄えている都市で、不夜城と呼ばれ名の通り夜でも明るかったので星など一切見えなかったのです。
 旅に出てよかったと思える一面でもありました。
 焚き火の前でうとうととしていると、ガサッと物音がし目を覚ますと水嶋さんがテントから出てきて僕の隣に座りました。
「……お前、寝ろよ」
「はい?」
「今から俺が番しとくから、お前は寝とけって」
 水嶋さんが僕にこう気を使ってくれるのは始めてのことだったので、お言葉に甘えテントに入った。自分の寝袋を取り出し、スヤスヤと眠りに就こうとしたときにガキィィィンと岩と金属が触れる爆音が聞こえました。
 寝ようと思った矢先でしたので、少しイラついてたってのもあります。
 敵が襲撃してきたと決め付け、高位魔法で瞬殺してやろうとテントの外へ出ると、外に居たのは水嶋さんだけでした。
 やたらめったら剣を振り回し、地面に刺さったり剣の重さに耐えかねヨレヨレとしていたり……。
 どうやら爆音は、水嶋さんのせいだったようです。
 僕に対する最高の嫌がらせだな、オイ。と素性丸出しになりそうになって、良く見てみると水嶋さんは必死でした。一所懸命、剣を構えてがむしゃらに振り回している姿は……、まぁ無様ですけど。構えとか全然なってないし。
 けど、自分が足手まといだと、気づいてたみたいですね。だから、こうして僕に見られないよう練習しているんでしょう。もっと先に気づいて欲しかったですが。
 もう少しだけ静かにしてくれると大変嬉しいのですが……、いいでしょう。水嶋さんがこうして練習して、ちょっとだけでも強くなってくれれば僕の負担も減りますから。
 水嶋さんには分からないようヒットポイントを回復してあげて、僕はテントの周りにシールドを張ってから眠りについた。
 ここだけの話ですが、私は水嶋さんよりもレベルは全然高いんです。魔法使いである父に、厳しく鍛えられましたから。それに年も、彼より5歳上ですしね。

 ☆

 有能すぎる部下を持つと、上司は大変だって聞いた事がある。
 少なくとも、俺の場合、そんな感じだった。
 元々、放浪癖があって世界各国をぶらぶらと旅しているときのこと。国の中でも一番大きい都市に着いた。世界中で最高位の神殿の中を探索していると、そこを取り仕切ってるジイさんがいきなり「お前が世界を救うのじゃー」といきなり叫んだ。
 意味が分からなかったが、勝手に勇者にされて、この都市にいる魔法使いと一緒に旅をしろって言われた。
 それ以外のことは教えてくれなかった。
 だから、俺はその魔法使いのところへ行って「一緒に旅してくんね?」と頼むと、隣にいたおっさんがブチギレた。
 何でキレたのか、俺にはまだ分からない。
 優男のような表情をした魔法使いは、おっさんを宥めると半ば無理矢理俺の腕を引っ張って町から飛び出した。一刻も早くこの町から離れたいと、俺に訴えているようだった。
 だから、俺は、「こいつはこの町が嫌いなんだな」と勝手に決めつけ、隣町やその隣町を無視して奥にある森へと向かった。
 その辺から、敵が出現し始めて、戦闘することが多くなった。
 勇者の剣とか言う、めちゃくちゃ重たい剣で戦わなきゃいけないのだが、今まで一度も剣なんて扱ったことが無い俺は戦闘でも足手まといだった。
 これじゃぁ、全滅してしまうと思った瞬間、魔法使いが一瞬にして敵をなぎ倒していく。冷静な顔をして、呪文を唱えてる姿はどこか戦いなれているようだった。
 ぶっちゃけ、悔しかった。
 森を抜けるまで俺も不安で練習することができない。森では敵の出現率がめちゃくちゃ高いって、神官から渡された旅のしおりに書いてあったし。
 この森を抜ければ、次は平原地帯に出るって地図に表示されているから、それまでの辛抱だった。
 森を抜けるのに……。1週間かかってしまった。
「……そういえば、お前の名前は?」
 出会って2週間。俺は魔法使いの名前を聞いていないことに気づいた。基本的に「なぁ」とか「おい」とか「お前」で済んでしまっていただけに、名前を聞く機会が無かった。
 二人きりの旅だ。名前ぐらい聞かないといけないと思った俺は、隣を歩いている魔法使いを見た。
「アイルと申します」
「……アイルね」
 俺はコイツ……、いやあいるが住んでいた町からだいぶ離れた場所で生まれて、旅をしてここまで来たから名前が全然違った。
 なんだか、新鮮な響きだ。
 俺が復唱すると、アイルは少しだけ目を見張って俺を見てから、プイッとそっぽを向いた。
 アイルは俺に優しくもなく、厳しくもなかった。戦闘で役に立たなくても、文句を言うことも無いし、助けてくれるってわけでも無かった。
 何を考えているのか、よく分からない奴だった。知ったのは名前だけで年齢も俺は分からない。きっと年上なんだろうな……。
 落ち着いている雰囲気は、俺より年長者に見えた。
 森を抜けて平原に出た1日目、俺はイヤな夢を見た。昔の夢だ。最後まで追い詰められてしまい、自分の叫び声で目を覚ました。
 その時、いきなりテントの出口が開いたからびっくりした。アイルが少しだけ心配そうな顔をして、俺を見ている。
「どうかしました?」
 怖い夢を見て叫んだなんて言えば、ガキに思われると思ったから「何でも無い」って答えてすぐに布団に入った。
 さっとテントが閉められた音がして、もう一度寝てやろうかと思ったけど怖い夢を見たせいか眠ることができなかった。
 森に居た時から、コイツは外で見張り番をしてくれている。俺はそれに甘えていたが、アイルも少しは眠らないと疲れが取れないだろう。
 いつまでもアイルに甘えているわけにはいかないから、寝袋から出てアイルの所へ行った。
 そうだ、ついでに剣の練習もしよう。
 俺が見張りを変わるって言うと、アイルは訝しげな顔をして俺を見ていたがすぐに立ち上がってテントの中に入って行った。
 よし、これで練習ができる。
 カバンの中から剣を取り出して、ブンと大きく振りまわすと重さに耐えきれなくて思いっきり地面に剣を叩きつけてしまった。
 ガキィィィィンと大きい音が鳴る。
 とりあえず、俺は腕力を付けるところから始めないといけないんだなって実感した。俺の目標は、まず剣を扱えるようになってからだ。神官から貰ったしおりには剣の扱い方なんて、書いて無かった。
 なんて不親切設計。
 けど少しでも良いから、アイルの負担を減らしてやりたい。
 いつまでたっても足手まといはイヤだった。
 半ば無理やり決められた勇者だったけど、やるって自分が言ってしまったからにはやり遂げる。
 きっとアイルは俺のこと「適当な男」って思ってるかもしれないけど、やる時はやる男なんだぜ? 実は。
 俺の座右の銘は「有言実行」ってこと、いつか教えてやるんだからな。お前の居るところまで行けたら、教えてやるよ。










現代ファンタジーは何個かやったことあるんですが、完全ファンタジーは初です。
あまり長くする気が無いので、短めです。
次から完全魔法使い視点になります。
……つーか、この二人で世界を救えるのか!?!?
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