ロイヤルロード


「あっ……、え、何で俺ら、裸で寝てんの?」
 そう言われた時の守谷の顔、すっげえ面白かった。凄くショックを受けたようで、顔面蒼白、今にも泣きそうな顔をするから、笑ってしまいそうだった。ほんのり涙目になっていたのも、俺の笑いを蓄積させた。でも、折角忘れたフリをしたんだから、ここぞとばかりに昨日のことを聞いてやろうと思って、何で裸で寝てるのか尋ねまくったら「し……、知らない」と声を震わせて、部屋に消えてしまった。ぐすんぐすん泣く声が聞こえて、俺は腹を抱えてしゃがみ込む。
 うちは部屋の壁が薄いから、隣で何をしてるかすぐに分かる。泣いてる声も、オナニーし終わる時のティッシュを取る音だって、何でも聞える。だから隣で何をしてるのか、俺はほとんど把握していた。笑い声が漏れないよう、口を押さえるのに必死だった。
 忘れてるわけないじゃん。昨日のことなんて。
 酔っ払ってたけど、記憶失うほど酔っ払ってなかったもんねー。


 俺はどうやら、世間一般的にイケメンと呼ばれる部類らしい。
 自慢とかそんなんじゃなくて、実際、女関係で困ったことが一度もない。学年で一番可愛いと言われた女の子は、大半が俺に告白する。まぁ、兄弟はもちろん、親も親戚も基本的に整った顔をしていたから、小学校高学年になるまで自分が整った顔だなんて思ったことはない。と言うか、他人なんか興味無かったから、誰かと比べたり、競い合ったりなんてしなかったので、自分がどれほど優れた人間なのか知るのに結構な時間がかかった。
 だから俺はあまり苦労した記憶がない。少し微笑めば、誰かが何かをやってくれる。友達だってすぐに出来た。俺と一緒にいると、女が寄ってくるからだって。周りがみな、俺の顔ばかり見て、中身なんて全然気にしちゃないから、そりゃ、性格だって悪くなるよ。利用してやろうとか、遊ぶだけ遊んで飽きたら捨てちゃったりとか、苦労したことがないから何かに執着したこともない。それに家もそこそこ金を持っていたので、生きて行くのに困ったことが無かった。人生ってこんなもんだと、十八にして残りの人生を勝手に決めつけていた。
 大学は実家から少し遠いところを選んだ。家から出てみたいと言う年頃の好奇心と、実力に合った大学だったらどこでも良いと言う適当な理由だ。家が不動産を経営しているから、大学の近くにも物件はあって、新築の2LDKを俺の住まいにした。一人で住むには広すぎるけれど、住めれば何でもいいやと思って一人暮らしを始めた。
 入学式の朝、掲示板を見ながらおろおろしている奴が俺の目に付いた。ちょっと垢ぬけてない感じで、俺とは関わってこなかった根暗な分類に入るダサい男。目に入ったから気になったものの、多分、俺の視界に入らなかったら気付くこともないだろう。それぐらい、影も薄かった。誰かに尋ねりゃいいのに、それすらもしないで困ってるのを見ていたら、バカだなってちょっと思ってしまった。誰かが助けてくれるのを待ってるんだろう。そんなことを考えてる暇があるなら、自分で何とかしろ。人に助けなんて求めてんじゃねぇ。と内心罵りながら、そいつの後ろを通り過ぎる。
「あ、あのっ……!」
 突然、声を掛けられてびっくりした。こう見えても人間観察は得意で、大体、考えてることは間違ってないのに、コイツは俺の予想を裏切って声を掛けてきた。見ると怯えたようにびくりと体を震わせる。
 あぁ、アレだ。小動物だ。
 苛めたらおもしろそー……。
「どうしたの?」
 にこりと笑いかけると、そいつは少しだけ安堵した表情を見せる。
「講堂ってどこか分かりますか? 入学式に行きたいんですけど、広くてよく分からないんです」
「あぁ、講堂はね、向こう」
 そう言って俺は、今来た道を指さした。行動とは正反対の道。嘘を教えたってのに、そいつはやっと笑って「ありがとうございます」と俺に頭を下げた。俺もスーツ着てるんだから、入学生だって一見すれば分かる。パタパタ走っていく姿を見つめ、クスクスと笑ってしまう。そして俺は、講堂へ向かった。彼向かった方向とは反対の道へ。
 その後、彼がどうしたのかはよく分からない。俺のことは恨んでるだろうが、案外、騙したのは俺だと分からないかもしれない。あの時は黒髪で、今は茶髪だ。そう思っていたが、本当に彼は俺のことなんか覚えてなかったらしく、同じ学科で何度も顔を合わせているのに恨みごとの一つも言わなかった。言えなかったの間違いだろうかと勘繰ったが、そう言う気配も見せない。と言うより、彼の視界に俺は入ってなかったようだ。それは無性に腹立った。どうにかして近づきたいと思ったけど、必死になって近づくのもなんかバカっぽい。どうしようか考えあぐねていたとき、彼が寮の抽選に漏れてしまい、部屋を探していると聞いた。
 あ、これで攻めよう。そんなことを考えてるうちに、俺は彼のこと、守谷のことを好きになっていたのだろう。どこを好きになったかなんて分からないけれど、まぁ、俺の予想を裏切ってくれたところとか、一度見たら忘れられない俺の顔をあっさり忘れちゃったこととか、いろんな要素があったに違いない。認めたくないって言う感情は、あんまりなかった。男が男を好きになるのは、話に聞いたり、告白されたりしたから知っていた。でも、まさか、自分が男を好きになる姿が想像できなかったから、意外と言えば意外だった。
 守谷が掲示板に向かうのを見計らって、俺は先回りする。目に付きやすそうなところ、できたら守谷がパッと取るようなところと思ったが、時間もあまりない。俺が付けたってバレたら、女たちが煩いからその辺に居た男に募集要項を書いた紙を張ってくれるように頼んだ。それから俺は、守谷が取るかどうか上から見下ろす。思いの外、あっさりと紙を取ったからびっくりした。こんなに上手く行くなんて、やっぱりチョロイなって思って笑ってしまった。
 その後、守谷は俺の所へ来た。その登場の仕方もなかなか面白かったけど、いつも通り笑えたと思う。こう言うタイプは最初にからかっちゃうと、引っ込んじゃって逃げてしまうだろうから、初めは肝心だ。警戒されないよううちに来させて、ここに住んでもらうよう説得する。なんせ人の多いところで思いっきり転んでくれたおかげで、俺がルームシェア募集してることがバレてしまった。もし、断られたら厄介だ。お願いにお願いを重ねると、渋々といった様子で守谷は頷いてくれた。ま、家賃も安めに設定したしね。好条件であることは確かだ。それから、守谷との生活が始まった。
 一緒に住んでも必要最低限しか、守谷は喋らない。俺が話しかけても、どこか怯えた様子で頷いたり返事をしたりで、全然、仲良くなれない。確実に距離は縮まっているはずなのに、守谷は俺との距離を縮めようとはしてくれなかった。なんかちょっと悔しかったのと、構ってほしさに女を呼び込んだ。ルームシェアをするにあたって、決めた約束事はあまり多くない。女を呼んじゃダメなんて言ってないけど、さすがに文句は言うだろう。なんてったって、うちの壁はとても薄い。喘ぎ声とか聞こえたら、文句を言うのが普通の人間だ。連れ込んで一日目、守谷は何も言わない。数日過ぎても、守谷は何も言わなかった。それにもイラっとしてきて、俺は憂さを晴らすように連日女を連れ込んだ。
 女が下で喘いでるのを冷静に見下ろしながら、今後の策を練る。文句を言うどころか、守谷は俺が抱いてる女の声を聞いて、オナニーし始めてしまった。きっと、今もやってるはず。うちの部屋、壁が薄いから耳を澄ませば何でも聞えるって、守谷は分かってるはずなのになぁ。こっちに集中してて聞えないと思ってるんだろう。女の手が首に絡まって、俺のことを好きだと言う。簡単に言える好きなんて、信じられなかった。少し乱暴に奥まで突っ込むと、大きい声を出して女の体が仰け反る。隣の部屋から、ティッシュを取る音が聞こえた。あ、今のでイっちゃったかな。
 女を連れ込む日が続くと、守谷が増して暗くなった。そろそろ、潮時だろうな。睡眠不足にさせちゃってるし、俺もそんな毎日毎日ヤりたいわけじゃないから、さすがに疲れた。意地を張ってたってダメだろうし、別の方向で攻めてやろうか。出て行きたいって言わせたら、俺の負けだ。
 その日は早めに帰ると、リビングで守谷がご飯を食べていた。俺の顔を見るなりに物凄く驚いて、スプーンを落としていた。守谷は自分でご飯を作っているから、今、その皿の中にある炒飯は守谷が作ったものだろう。なんか、美味そうだ。思ったことをそのまま述べながら対面に座ると、あからさまに守谷は嫌そうな顔をした。ああ、そう言う顔もできるんだ。面白い。
 守谷のご飯をつまみ食いすると、本当に美味かった。作ってってお願いすると、守谷は嬉しそうな顔をして頷いてくれた。あれ、意外とチョロイな。そんな嬉しい顔をするとは思わなかったから、びっくりだ。ご飯作ってって言うのが、そんなに嬉しいんだろうか。そういや、女の子たちも家に誘われるとご飯食べる? とかよく聞いてきたっけ。俺には出来ないことだから分からないけど、自分の作ったご飯を美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいらしい。
 それから女の子を連れ込む回数を減らした。でも、守谷は毎日オナニーしてて、その意味がよく分からなかったから、そのオナネタに妬けた。
 ちょっとずつ守谷と仲良くなり始めた頃、女の誘いが面倒で守谷をダシに断ったことがある。何度か使ってしまうと女の憎しみは守谷に向けられて、絡む奴が出てきた。それを酷い言葉で撃退してやると、守谷は悲しそうな目で泣いている女を見つめていた。どう言う気持ちで見ているのか分からないし、聞けなかった。女が可哀想だと、思ったかな。でも、付き合ってもないのに俺のことを束縛しようとする奴は嫌いだし、なんせ俺に直接言ってこないところも嫌いだ。何より、守谷を困らせたことが許せない。徐々に距離は近づいているはずなのに、どこかが可笑しい。
 人の思考を読むのは得意なんだ。けれど、守谷の思考はよく分からなかった。
 あまり深酒をしないタイプだったが、分からないことの多さにイラついてその日は酔っ払って帰った。玄関先で転んでしまうと、守谷が驚いた顔をして部屋から出てきて、俺を見て心配そうに声を掛けてきた。手を貸してとお願いすると、守谷はわざわざ俺を部屋まで運んでくれた。靴も脱がせてくれた。それから眠気が襲ってきてしまい、目を閉じてしまうと守谷の気配が近くなった。鼻に息が当たる。目を開けようか迷ったけれど、あえて寝たふりをする。キスでもするつもりか? でも、どうして。
 結局、守谷は俺にキスしなかった。それがちょっと悔しくて、目を開ける。部屋から出て行こうとする守谷の腕を引っ張って、後ろから抱きしめた。
「あーあ」
 諦めたように声を出すと、守谷の体がびくりと震える。怯えた顔がどうしようもない加虐を誘い、嫉妬心がそれを相乗させる。今まで我慢してきたんだから、ちょっとぐらい意地悪したって怒られないはずだ。
 一番ムカついているのは、最初の出会いを忘れてることだ。
 だから、俺も、抱いたことなんて忘れてやった。
 俺に抱かれながら、守谷は何度か好きと言った。それが本当かどうか、俺には分からなかった。


 やっぱり俺は、世間一般的に言うとイケメンだ。
 一般的にイケメンと言われている人種の性格を分けるとしたら、善意しか与えられず素直で良い人になるか、簡単すぎる世の中に呆れて悪くなるかのどちらかだと思う。イケメンが微笑めば周りは明るくなるし、僅かにでも嫌そうな素振りをしたら慌てて俺の機嫌を伺い、とても扱いやすくなる。女でも男でも、みんな俺の顔色ばかりを伺っていた。店でもそうだ。俺が店員を呼ぶとすぐにやってくるし、探しものは全力で探してくれる。おまけしてくれたり、内緒でと言ってメニューに無い料理を出してくれたり、顔が良いってだけで得して生きてきた。
 けれど、苦労したことだって少々あった。顔が良いってだけで、周りは俺のことを善人だと思いこむ節がある。酷いことは口にしない、情けないことはしない、誰にでも優しい。同じ人間とは思ってないような言い方をされるのは、癇に障る。そう言う時は大概、笑って誤魔化してきた。だから、笑顔は得意だ。俺の感情を一番隠してくれるから、嫌なことがあった時は笑うようにしている。
 苦労があったと言っても、やはり基本は楽をして生きてきた。手に入らないものがあると、ムカつく。そんな我がままで子供のような感情を持ち合わせてることは、俺の外見しか見ない奴には分からないだろう。
 守谷に対して酷いことばかりしてきた俺が、守谷に好かれようとするのは都合が良いのかもしれない。他の女たちと同じように、ただ顔だけで好かれてるのではないかと思い始めたのは、付き合い始めてから数日が経った頃だ。好きだと言ってくれたのは嬉しいけれど、どうして好きになったのか、守谷は教えてくれなかった。どんなことをしても、頑なに口を開こうとしなかった。
 言わないのは、後ろめたいことがあるからだ。色々考えてみたけど、可能性が無さそうなだけで少ないパーセンテージではあり得るから、全てが本当だと思い始めてしまった。俺がちょっとでも守谷に取り繕うとしたら、力関係が逆転しそうだから俺は顔にも出さなかった。主導権を握られるのは嫌だ。けれど、いつも俺の目の前にあるのは不安だった。
「……あ、小野寺。どうしたの?」
 姿を見つけて隣に立つと、守谷は困った顔をして俺を見た。
「見かけたから。これからどこ行くの? もう授業無いよね」
「うん。買い物行ってから帰ろうと思って……。何か、食べたいのとかある?」
 俺と一緒にいるのに、守谷は明るい顔をしようともしない。目を合わすことも無かった。いつもきょろきょろとあたりを見渡していて、落ち着きがなかった。今まで付き合ってきた女は、俺と一緒にいるだけで凄く嬉しそうな顔をしたのに、守谷はそうでない。何か、あるとしか思えなかった。
「そうだな。最近、暑くなってきたから、冷たいものでも」
 そんな疑問や苛立ち不安感はおくびにもださず、いつも通りに接する。どんなことを考えていても、普通に笑えるのは今までの経験だ。
「……じゃぁ、冷しゃぶサラダにしようか」
 提案された献立に文句は無かったから頷いた。買い物したら帰ると言うので、俺もそれに付き合おうとしたら、先に帰っていて、と言われた。買い物行くぐらい、一緒に行ったって問題は無いはずなのに、どうしてだろうか。帰りながら考えたが、思いついた可能性はやっぱり少ないながらもあり得たので、嫌な気分になった。ゼロでないだけでここまで心を揺さぶられるのだから、人を好きになるということは恐ろしい。付き合い始めて、舞い上がっていたのは俺だけか。そう思うと、ここまで思い通りにならない守谷に苛立ちを感じた。自己中だとは分かっているが、今まで何でもかんでも思い通りに動かしてきた俺には、我慢ならない状態だった。
 俺が帰って来てから、三十分後ぐらいに守谷が帰ってきた。ただいま、と聞えないぐらい小さい声で言うので、笑いながら「おかえり」と言った。目が合うと、パッと逸らされてしまう。変な顔をしてるわけでもない、目を逸らしてしまうほどの不細工でもない。なら、なんで守谷は目を逸らすのか。
「夕飯は……、七時ぐらいで良いよね」
「うん。構わないよ」
「じゃ、それまで俺、課題やってるから……」
 そう言って、部屋に入ろうとする守谷の腕を掴んだ。びく、と震えて、怯えた目が俺を捉える。
「ど、どうしたの?」
「俺達ってさ、一応、付き合ってるんだよね?」
 守谷の目が揺れる。数十秒ぐらい時間を使って、ゆっくりと頷いた。付き合っていると言う自覚はあるみたいだが、態度は違っていた。そもそも、好きな相手にこんなことするか? 思ってる以上に怒っている自分がいて、少し驚いた。
「でも、避けてるよね? 嫌いになっちゃった?」
「え、あ……。そう言うわけじゃ……」
「避けてることは否定しないんだ」
 ちが……、と小さい声で守谷は言った。後から否定したって、そんなの肯定してるのと同じだ。
「何で? 酷いこともしたけど、好きって言ってくれたの守谷だよね」
「す……、好きなのは変わらないし。嫌いになったわけじゃ」
「じゃぁ、どうして?」
 あまり威嚇しないよう、笑ってみせた。でも、手は絶対に離さない。守谷は俺から目を逸らして、困ったように俯く。俺は座っていたから、表情はよく見えた。戸惑っていると言うより、なんか照れ臭そうだ。顔が、赤い。
「……どうしたの? 守谷」
 下から覗かれてることに気付いた守谷は、驚いて俺を見る。それから困ったように視線を逸らし、自分の顔を片手で覆った。漏れるような声が聞える。
「……俺、好きになった理由が、あんまりにも不純だったから。恥ずかしくて」
「え?」
 俺がうだうだ考えていたことは、全て杞憂だったと言うわけだ。
 守谷が俺にした説明は微塵も考えなかった想定外の答えで、かなり戸惑わせた。女を連れ込んでオナニーしてると、いつの間にか、俺に抱かれている幻想に至った。それからやたらと俺のことを意識してしまったけど、家に連れ込まれる女と同じにはなりたくなかったから、必死に自分を押さえこんでいたと言う。しかも、俺と仲良くなり始めて、女に優越感を覚えたりなど恥ずかしいことをいっぱいしたと。ただ、それだけだった。
 付き合ってからは周りの目が凄く気になって、一緒にいるとドキドキしてしまうと言う。なんじゃ、そりゃ。と脱力した。数日、考えこんでいた俺の時間を返してほしくなった。
「じゃぁ、俺が嫌いとか、顔が嫌だとか、そう言うわけじゃないんだ?」
「も、もちろんだよ。嫌だったら、さすがに出てってる……」
「てっきり、脅されてるからかだと思った。あとは同情とか」
「……え?」
「あぁ、もう。なんか守谷の前ではダサいな、俺」
 ガリガリと頭を掻くと、困ったように守谷は俺の前に座る。今まで思案してたことが全部勘違いだったのは、かなり痛々しい。どうして、守谷は俺の思う通りに動いてくれないんだろう。でも、きっと、俺が守谷を好きになった理由は、こういうところだ。
「そんなこと、無いよ?」
 そう言って、守谷は初めて自分からキスしてきた。不意打ちでこんなことをされて、心臓が爆発しそうなぐらい鼓動を打つのは、生まれて初めてだ。ほんと、俺の予想をたやすく裏切ってくれる。
 でも、主導権は俺が握んなきゃな。
「じゃ、仲直りしようか?」
「…………え?」
「さ、守谷の部屋、いこ?」
 にっこり笑って腕を引っ張ると、少しだけ抵抗された。嫌がっても無駄だって、まだ分かんないんだろうか。今日はとことん、苛めてやる。周りからどう評価されてようが、今、守谷の前にいるこの俺が、本当の俺だ。

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