浮気した恋人への矯正術
その青年の名は、有野清真と言う。
つい、数週間前のことだ。最愛、最高な恋人の藤木聡を家から追い出すという、画期的な方法で数ヶ月続いていた浮気を無理やりやめさせた。無理やりと言うか、聡の浮気をどうにかしたかった清真は、聡の幼馴染にして親友である紺野洋平に聡の浮気はどうにかならないかと、恥を忍んで相談した。女に節操など全く無いことを知っていた紺野は「あんなバカ、いっそ追い出しちゃえよ」と他人事のように言い、清真を数日悩ませた。それでも清真は数日悩んだ結果、聡を追い出すと言う過去の統計上ありえないことをしでかしたのだ。清真が聡のことを溺愛しているのは、聡も紺野も良く分かっている。だからこそ、紺野は聡の目を覚まさせるために追い出せを軽く言い、裏でそんなやり取りをしているとは知らなかった聡はまんまと紺野の計画に引っかかり、清真からも追い出され、その後に逃げ込んだ紺野の家でも追い出されたと言うわけだった。
逃げ込んできた聡から、清真の悪口を聞いていた紺野は、確実に悪いのが聡であるのに全く反省していないのを見て、少しだけキレた。昔から、何があっても絶対に自分は悪くないと妙な自尊心が強く、紺野は何度かそのことを注意していたが、聡は聞き入れなかった。そもそも、清真と言う名のごとく清らかで純真である清真が、こんなチャラけたクソ野郎のことを溺愛しているのか分からず、なけなしの勇気を振り絞って聡を追い出したのだから、聡などもう必要ないと思わせてやるために清真を改造しようと思った。顔についているパーツだって、メガネと黒髪さえやめてしまえばいまどきの男よりも整っているし、スレンダーな体は今の女の子によくモテる。正直、聡よりも良い男であるのだから、もっと自分に自信を持てば良いのにと紺野は思っていた。
聡を追い出してから、紺野は清真に電話をかけた。かなり凹み気味で、今すぐ自殺しますとでも言い出しそうな雰囲気をかもし出している清真に、紺野は「今回のことは俺に任せてみない? アイツはきっと、清真君のところに戻ってくるよ」と、けしかけ、聡が清真のところに戻ってくると断言してしまったが、清真が愛想を尽かしてしまえば良いと紺野は思っていた。ああいうバカは、一度本気で痛い目に遭わないと分からない。
清真が聡を追い出してから1週間、紺野は清真を服屋へ連れて行ったり、美容院へ連れて行ったり、眼科へ連れて行ったりなど忙しかった。着ている服装を思いっきり替え、髪の毛は明るい茶色にし、目にはコンタクトを入れた。元々のパーツが良いせいか、何を着させても似合うし、何色にしても似合っている。ガリ勉のイメージが強すぎた清真が、今時の大学生に変わり、感嘆の息を漏らしてしまった。やり遂げた満足感は、今世紀最大だった。
そして、大学でもかなり可愛い部類に入る女の子を清真に紹介し、すごくいやそうな顔をしている清真に「二人で仲良くしているところを、聡に見せ付ければ、アイツは戻ってくるよ」とそそのかし、そのままその女の子と出来ちゃえばいいのにと目論見ながらも、兄のように慕ってくれていた清真が上手くいくように心の底で思っていた。清真が聡とヨリを戻したいと言うから、そう思っただけで、本当のことを言うと聡のことなど、どうでも良かった。
紺野の策にまんまとハマった聡は、女の子と仲良く喋っている清真を見て、吐きそうになったと言う。それを聞いた時は、笑いが止まらず、講義中だと言うのに大声で腹を抱えて笑ってしまった。完全に紺野の企みにハマりまくっていた聡は、清真に二度と浮気はしないと誓い、二人は関係を戻したのだった。
「せ、い、ちゃん」
「……何ですか?」
トンと肩を叩かれ、ご飯を作っていた清真は上機嫌に話しかけてきた聡を見つめる。手には包丁。大根の入った味噌汁が飲みたいと喚いた聡のために、清真は大根と油揚げの味噌汁を作っていた。出汁は鰹節で、味噌は合わせ味噌。紺野から「清真君はー、もう少し肉食って、体に肉つけないとなー」と言われてから、少しずつ肉料理を増やした。紺野を師匠と慕っている清真は、紺野の言うことを聡の次に利いている。
「最近、肉料理多いね。どーしたの?」
聡が清真の肩に顎を乗せると、癖のついた髪の毛が頬に当たってくすぐったかった。聡から香ってくる整髪料の匂い、少し残った石鹸の匂いと、聡自身の匂いに清真は下唇をかみ締めた。こういう無防備な格好ほど、欲をそそらせる。コンロの火を切って、その場に押し倒したくなる。
「紺野さんが、肉つけたほうがいいから、肉食べろって」
「……へぇ、紺野が」
背後から抱え込む体勢で、聡は清真の腰に手を回した。肩越しに清真の包丁捌きを見つめて、清真がかっこよくなった原因である紺野の事を思い浮かべた。清真と付き合っていることも、半同棲状態であることも、女の子に手を出しまくったことも紺野は知っている。むしろ、それを聡から話して自慢していたようなものだ。腹のうちに抱えている怒りはいまだに収まらず、清真を変えたのが紺野だということが気に食わない。非常に腹立たしく、思い出すだけで今から紺野の家に行って殴り倒したいぐらいだ。しかし、紺野が清真に入れ知恵をしなければ、清真をブチギレさせて元通りには戻らないぐらいケンカをしてしまっていただろう。持つべきものはやっぱり友だなと、一方的な友情を聡は紺野に向けていた。
「どうしたんですか、聡さん。ちょっと邪魔なんですけど」
「えー、暇だしー。清ちゃんの腰周り、すげぇ良い」
力をこめて清真の腰を抱きしめると、清真はヤレヤレとため息を吐いて、コンロの火を切った。
「……あれ、ご飯作んないの?」
てっきり、このまま移動してご飯を作るのかと思えば、清真はコンロの火を切ってしまった。そこまで邪魔をしているつもりが無かった聡は、驚いた拍子に抱きしめていた力を弱めてしまった。その隙を突いて、清真が体を回転させて、聡と向き直る。
「ご飯は後です」
「……へ?」
「どうやら、聡さんが俺を誘ってるようなんで、お相手しようかなって」
微笑む清真を見て、聡は誘っているつもりなんて無いと大声で叫んだが、ソファーの上に押し倒されてしまいキスをされると、拒むことなんて出来なかった。
「んぁっ、せ、いちゃっ……」
清真に告白され、付き合うとなったとき、こういうことをするのは知っていたが、清真とだったらプラトニックではないのかと、聡は思っていた。純粋で、欲を知らなそうな、ある意味聖人だと思っていた。実際、付き合ってみてからそのイメージはすぐに壊され、思った以上に肉欲的である清真に抱かれてしまい、聡は「まぁ、痛かったけど、気持ちよかったし。いっかぁ」と持ち前の能天気でさほど気にはしていなかった。それでも、男なのに男に抱かれ、女のように喘いでいると言うジレンマに苛まれ、そのストレスを解消する対処法として女の子を抱くと言う一番最低な方法を選んだのだった。
何も言わず、いつもどおり生活をしている清真に、最初は悪いと思っていた。けれど、一度始めてしまったことをやめるのには、かなり強力な自我と忍耐力を要するため、聡はやめることが出来なかった。清真に抱かれながら喘いでいる反面、女の子を抱いて喘がせていることで、正常であると言い聞かせているだけだった。そういうことをしていることが、異常であるとは気づかずに。清真が早い段階で止めてくれていたら、何か変わっていたのかもしれない。浮気しているのに気づきながらも、清真は何も言わなかった。徐々に態度を変えていっただけだったので、聡は清真が気づいていることを言われるまで知らなかった。
全てを白紙に戻すことは出来ない。一度鉛筆で書いたところを消しゴムで消しても、書いた筆跡は残ってしまう。それでも、なくした信頼を取り戻せるよう、聡は努力していた。出来るだけ、清真には優しく、そして一途でいれるようにと。
清真はそれに応えてくれていると、聡は思っていた。
「ここ、やだ……」
「……え?」
「そふぁー、やだって。明るいし……」
煌々と電気のついているリビングで押し倒されている聡は、弱々しい声で清真に訴えかける。ヤるのはかまわないが、ソファーでヤるとご飯を食べているときにヤっていたことを思い出してしまう。テレビを見ているときや、くつろいでいるときにそれを思い出すのは、かなり辛いものがあった。
「いいじゃないですか、たまには」
マウントポジションを取っている清真が動かなければ、聡は動けない。それを良いことに、清真は愛撫を続けていた。
「やだって、せいちゃ、んっ……」
さすがは長年付き合い続けていて、数え切れないほど体を重ねただけあって、清真は聡のいいところを知り尽くしていた。触れる指先が甘い快感を生んで、背中が跳ねる。狭いソファーの上だと身動きが取れず、少しだけ苦しくなる。清真が動くたびに、ちらつく蛍光灯の光が目に入ってまぶしかった。
服を捲られ、ベルトを外される。ちょっとキスして、ちょっと舐められただけだと言うのに、聡のモノははちきれんばかりに起き上がっている。清真はどこを触れれば、こうなるかなんて分かりきっていた。
聡をイかすことだって、清真は簡単に出来る。
「……聡さん、実はソファーのが好きじゃないんですか?」
勃起しているペニスを下から撫で上げ、清真は耳元で囁く。ボクサーパンツ越しに感じる指の動きに、聡はゆっくりと目を開けた。明るい部屋、半分脱がされた自分の格好、そしてペニスを握っている清真の手。それが見えた瞬間、一気に羞恥が込みあがってきて居た堪れなくなる。
「おねが、い、ここやめて」
「イヤです」
「……へ!?」
まさか、こうも真顔でイヤだと言われるなんて思ってもいなかった聡は、間抜けな声を上げてしまった。真剣にお願いをすれば、清真は移動してくれた。今までだってそうだ。清真は聡が嫌がることを絶対にしなかったのに、今日は違っていた。
目を見開いて清真を見ると、清真はにっこりと笑っている。その笑みの中に、隠れた怒りを見つけてしまい、聡はたじろいだ。ここ最近、女の子と浮気はしていない。していないけれど、清真はその前のことを根に持っていた。
純粋でまっすぐだと言われている清真だが、根はブラックであることを聡は知っている。今日は物凄いことをされるのではないかと察知し、上体を少し起き上がらせ、逃げる体勢に入る前にボクサーパンツのゴムの部分を握られ、そのまま下にずらされた。
透明な液体を出している先端を、ぱくりと食べられ、聡は声を上げる。やはり、体を知り尽くしているだけあって、清真のフェラは物凄くいい。
「せい、まっ……」
清ちゃんと言う愛称で呼ぶことも出来ず、聡は清真の髪の毛を軽く握る。ゆっくりと舐めあげられるとじれったく、声が抑えきれなくなる。小さく漏れるような声を出していると、股間から笑い声が聞こえてきた。
「せーま?」
「聡さん、めちゃくちゃ可愛い声出してますけど。女の子にこんなことされても、可愛い声出してたんですか?」
清真は笑ったまま、聡にそう尋ねる。仲直りをしてから、清真は一度もほかの女を抱いていたときのことを口に出したりはしなかった。それこそ、どんなプレイをしてどんな風に喘がせていたのか、尋ねられなかったから言わなかったが、そんなこと足りない脳みそで考えても言ってはいけないと分かっている。それなのに、傷口をえぐる様に尋ねてきた清真に、聡は泣きそうになった。
「ちが……」
「でも今、すごく可愛い声出てましたよ。実は、喘いでたんじゃないんですか?」
ニヤニヤと笑う清真の表情は、はっきり言うと極悪人のようだった。紺野は以前、清真のことを「名は体を表すって清真君のことだよなぁ」と呟いていたが、それは全くの嘘だ。名は体を表すということわざの意味が分からなかった聡は、あとで清真に聞いたのだが、そのとき清真は「聡さんほど、名前を体で表せない人はいませんよね」とにっこり微笑まれた。清真と言う人間は、そういうやつだと言うのを、紺野及び、その他多勢は知らないのだ。
「ちがうちがう。そういうのやめてよ」
聡は首をぶんぶんと振って、泣きそうになりながら清真を見る。下から見上げる聡の顔は、今にも泣きそうで物凄く可愛らしく、清真はもっとイジメたくなった。泣きそうな顔をして懇願されるのは、加虐心を煽り、眠っているS心が目を覚まそうとしてしまう。茶色いくせっけを無造作ヘアーにセットし、程よく筋肉のついた体は着やせして隠れてる。歩いているだけで女の子の目を引く聡であるが、清真の前でしか見せないこの弱々しい表情こそ、清真が一番好きな顔だった。
「やめませんよ」
「……な、ん、で……」
「せいぜい、浮気したことを後悔してください。今日は浮気したことのオシオキです」
オシオキと言えば、目を覚ましてしまったS心を許してもらえる気がした。今日だけだからと自分に言い聞かせ、清真は引きつった笑みを浮かべている聡に微笑みかける。昔から、聡をイジメてみたかった。じらしてみたり、寸止めしたりしたらどんな表情をするのだろうかと、常に考えて、頭が爆発しそうになっていた。それでも、聡に嫌われるのが一番怖いからそんなこと出来なかったけれど、ようやく、チャンスが巡ってきた。聡は浮気が原因で清真が怒っていると思っているのだろうが、実際は違う。浮気したことなど疾うに許しているし、追い出したことで懲りたのならそれで良いと清真は宇宙よりも広い心で聡を受け入れている。今日はあまりにも聡が可愛いことをするので、とことんイジメたくなっただけで、その名目としてオシオキと言う言葉を選んだだけだった。
バカな聡はそんな思惑には気づいていない。
「やだあああ、せいちゃああん」
「可愛く呼んだって、ダメですよ」
オシオキだから。厳しく。
そんなオシオキにたっぷりと愛がこもっているとは露知らず、聡は清真にされるがままであった。
「……ぁああっ、せ、せーま……」
聡の服は全て脱がされ、清真は下半身だけ脱いだ状態で聡の中に己のモノを突っ込んでいた。やっと解放された苦しさと、たっぷりの快感で、聡の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。ヤりはじめて何時間経ったか分からないが、こうして挿入してもらうのにも、一度土下座したぐらいだった。土下座をして「入れてください!」とお願いをしたのにも関わらず、名前とは正反対の性格をしている清真は「ダメです」と聡のお願いを一刀両断し、土下座をした格好で背中の上に体重をかけられ、身動きが取れなくなった聡の尻に指を這わせ、本気で泣きそうになるぐらい喘がされた。
何回かイきかけたのに、イかせてもらったのは1回だけで、数回動いただけでも聡は限界まで達していた。清真の服を弱い力で握ると、清真の動きが止まった。
「どうしたんですか? 辛い?」
「ちがっ、う……。イきそっ……」
「もう、イきたいだけイっていいですよ」
一つになってから、清真は先ほどの鬼畜さなど微塵も見せず、優しい笑顔を聡に向けていた。挿入した時点で、オシオキはもう終わったようなものだから、せめて今は聡に優しくして、今までのことを水に流してもらうつもりでいた。いくら、オシオキだと言っても、目に涙を浮かべるほど我慢させ、土下座するほど焦らし、羞恥心で隠れたくなるぐらい恥ずかしいことを言わせまくったのだ。満足したと言えば、3年分ぐらいの満足はした。だから、これからはそんなことをさせてしまったお詫びみたいなものだ。例えオシオキでも、ヤりすぎると聡に嫌われてしまう。それだけは避けたかった。
「えぁ、いーの?」
「オシオキは終わりですよ」
清真がそういうと、聡は緩んだ笑顔を清真に見せる。その顔を見た途端、心臓を杭で打たれたような衝撃に見舞われた。油断していたとは言え、あまり見ない緩んだ笑顔は最強ともいえるぐらいの破壊力を持っていた。先ほどまで聡をイジメて遊んでいた清真だったが、やはり、溺愛している聡にはいつまで経っても勝てない。
「せーま、イかして」
「……え?」
「せーまがイかして」
感じさせすぎたせいか、それとも恥ずかしいことを言わせすぎたせいか分からないが、普段では言わないことを口走る聡に、清真は動揺してしまった。イかしてと言われたからには、精一杯イかせてあげようと思い、聡のペニスに手を伸ばす。本人が言うように、すぐにでもイきそうなペニスはパンパンに張っていて、動かしながら扱くと数回で達してしまった。
我慢してたのか、思った以上に飛んだ精液を見つめ、清真は聡の頬にキスをする。
「我慢してたんですか? すごく飛んでますよ」
「んっ、どやって、ゆるしてもらえるか、わかんないけど……。おれなりに、がんばろうと思って」
聡なりの頑張りが我慢をすることだなんて、どうしてそういう思考に行き着いたのか清真は少しだけ考えた。前に紺野が「アイツはたまに、何を考えているのか分からないところがある」と言っていたが、今回ばかりは聡のことを知り尽くしている清真でも分からなかった。それでも、許してもらおうと頑張っている聡を見たら、許せないはずがない。清真は耳元で「とっくに許してますよ」と呟き、今まで我慢させてた分、イきたいだけ聡をイかせた。
翌日。
「あっれぇー? 浮気しない日を更新し続けている藤木聡君ではありませんか」
「うるせぇ、紺野。話しかけんなよ」
いつも髪型はしっかりセットしていて、ワンポイントのアクセサリーも外さず、服装だってしっかりとしている聡が、髪の毛はぼさぼさ、服装は箪笥にあったのを引っ張ってきただけと言う適当加減に紺野は目を丸くした。
心なしか、本人も物凄く疲れた顔をして、カフェテリアのテーブルに突っ伏している。
「どうしたの? 風邪でもひいちゃった? 清真君に言おうか?」
「清ちゃんには言わなくて良い。それに風邪じゃない……」
「ああ! 分かった! 昨晩はあっつうううい夜をすごしたってわけだな!」
ぽんと手を叩き、大声で言うと、カフェテリアにいた学生たちが聡を見つめる。こんなになるまで頑張ったんだと、元プレイボーイである聡の噂は絶えない。
「熱い……。あれが熱いなら、灼熱って感じだな……」
ぐったりとしている聡が、悟りを開いた様に語り始める。灼熱と言う言葉を知っていたことにも驚いたが、そんなに熱い夜を過ごしたのかと紺野は笑ってしまう。
「そうだ、お前。清ちゃんのこと、名は体を表すって言ってたけど、あれは嘘だぞ」
思い出したように言う聡に、紺野は怪訝な顔をしてみせた。
「えー、お前、名は体を表すって言うことわざの意味、分かってんの? 適当なこと言うなよ」
「分かってるよ!」
怒り任せにテーブルを叩き、聡は上半身を起こす。「清ちゃんに教えてもらったもん!」と偉そうに言うと、紺野は遂に笑いを堪え切れなくなりゲラゲラと笑って聡を見た。
「まぁ、知ってるか知らないかはどうでもいいんだけど。なんで違うんだよ。俺としては、清らかで純真だから、名前どおりだなぁって思うけど」
「清ちゃんの悪口はあんまり言いたくないけれど、清ちゃんは清らかでも純真でもない。あれは………………、そうだ。羊の皮を被ったウサギだ」
「……は? ウサギ?」
突拍子も無く可愛い動物が出てきて、紺野は目の前で真剣な顔をしている聡を見つめた。羊の皮を被ったウサギなんて、今まで聞いた事がない。どういう例えなのか物凄く考えた後、羊の皮を被った狼と言うのは聞いたことがあるが、それと間違えているのではないかと思った。
「あの、藤木聡君」
「……なんだよ。フルネームで呼ぶなよ」
「それって、羊の皮を被った狼じゃぁありませんか? ウサギじゃ迫力ないっしょ」
「そうかも」
「かもじゃなくて、そうなのね。分かった? 日本語、もっと勉強しようね? 英語も喋れないのに、母国語も喋れないってキツイよ」
真顔でそう言われ、悔しくなった聡は「うがあああ!!」と叫んだ。清真の本性を教えてやろうと思ったが、やっぱり紺野に教えるなんてもったいない。一生騙され続ければ良いと思って、ぷいとそっぽを向いた。
カフェテリアの入り口から、清真の姿を発見した聡は立ち上がって手を振る。
「清ちゃん!! こっちこっち!」
元気よく手を振っている聡を見て、紺野は当分、この二人は大丈夫だろうなと安心し、持ってきたコーヒーを啜った。
大体、うちの攻めは嫉妬深くて、オシオキはしっかり派が多いですね……。
この二人は結構好きかも知れません。
紺野が黒幕かと思えば、本当の黒幕は清ちゃん。笑
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